理事長 式辞


 今年の冬はとても寒く、そして先月11日に東北地方でおこった大地震と大津波、そして原発のトラブル。日本にいる人たち全体が凍りつき、春がはるか遠くに感じた冬でした。昨日からあたたかい風が吹き、今日校庭の桜の蕾がいつの間にかほころんでいるのを見つけました。皆さんの入学とともに春がやってきました。
 須磨学園高等学校13期生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんを心より歓迎します。これからの三年間、どうぞよろしくお願いします。ご列席いただいた保護者の皆様、子どもさんのご入学を心よりお祝い申し上げます。またご多用の中、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様に感謝を申し上げます。

 さて、新入生の皆さん、 皆さんは入学試験を受けて合格して、須磨学園高等学校に入学してくることを選んだ人たちです。兵庫県には53校の私立の高等学校があり、また163校の公立の高等学校があります。もちろん学区の制限がありますし、私立では高等学校の募集をしていない高校もありますが、 それらを差し引いても、数多くの高校を選ぶ選択肢があったと思います。その中で、皆さんは、この須磨学園にくることを選び決められました。何が言いたいかというと、自分できめてこの学校にきたから、これからのことは「自己責任」でというつもりではありません。須磨学園がやっている取り組みに賛同して支持してくれる人たちが入学してきてくれたことをとても幸せに思うとともに、そういう人たちを大切に育てていかなければならないという責任を重く感じ、改めてしっかりとやっていく決意を固めております。
 中には「何が何でも須磨にきたいわけではなかった。第一志望校がだめだったから仕方なくきた」と思っている人もいらっしゃるかもしれません。その人たちに申し上げます。一日も早く気持ちを切り替えて、学校生活にのぞんでいただきたい。三年間を「いやだいやだ、こんなはずではなかった」と思って過ごすのと、「楽しい、これからも精一杯やるぞ」と思って過ごすのはとは大きな違いがあります。この大切な時間をそんなふうに過ごしてはいけません。少し時間はかかるかもしれませんが、現実を受け入れて、そこからスタートして下さい。
 皆さんのこれからの三年間がスタートするこの時期に、東日本では生活の基盤を失った人たち、大切な家族や仕事を失った方々が大勢いらっしゃいます。学校で学ぶということができない環境にある方々がいらっしゃいます。

 みなさんにその人たちのために何かをしてほしい、と言うつもりはありません。

 そのことを念頭において、皆さんにしていただきたいことがあります。

 みなさんに期待することがあります。それはみなさんには「温室に咲く花ではなく、野に咲く花になってほしい」ということです。しっかりと大地に根をはって、多少の風に吹かれても大丈夫なように、踏まれても、むしられても、引き抜かれても、また生い茂る雑草のようなたくましい人になってほしい。

 今まで周りの人たちに大切に守られて育ってきた皆さんに、なんてひどいことを言うのか、と思う人もいるかもしれません。でもこれから先のことを想像しててください。私たちのこの国は、街は今までのように、当たり前のように明るい電気が煌々とともった街ではなくなります。水道からでてくる水を当たり前のようにがぶがぶ飲むこともできなくなるかもしれませんし、食べ物もお腹いっぱい食べて食べきれないから残したり、好き嫌いを言ってお母さんを困らせるような贅沢は許されなくなるかもしれません。

 豊かだった私たちの生活はこれからは変わっていくことでしょうし、また私たちは自ら変わっていかねばならない時だと考えます。

 皆さんは今何をしなければならないか。みなさんは今これからどうするべきなのか。それぞれに考えていただきたい。この三年間で、何を身につけてどういう人になりたいのか、考えるだけでなく実行実践していただきたい。

 テレビでは安全だというニュースが流れ、しかし、インターネットの一部では「危ない」というメッセージが流れ、デマや風説が渦巻いている状態です。こういう時に痛切に感じることは「正しい知識が必要だ」ということ。「正しい判断をするための、正しい知識と情報が必要だ」ということです。そして正しい知識に基づいた合理的な判断を、冷静かつ理性的に実践することのできる人にならなければならない、ということを痛切に感じています。東日本を襲った災害は、もしかすると明日私達にやってくるかもしれません。
 その時、どうするか。どうするべきか。そのためには、学ばなければなりません。この三年間は何もしなくても、何かをしても等しく同じ速さで過ぎていきます。

 この地震で感じたこと。自分のことしか考えない人たちがいます。自分の失敗を他の人の責任にする人たちもいます。その反面、こういう時だからこそだれかが頑張らなければならない、と苦労も危険も厭わずに頑張っておられる人たちがいらっしゃいます。日本はそういう人たちに支えられ救われてきているのです。
 津波がやってくるまで「皆さん、危険なので避難してください」と放送を続けたアナウンサーがいらっしゃいました。その人は津波で流されて亡くなられましたが、最後までみんなのために放送をしておられました。みんなが一丸となってこの困難な局面を乗り越えていくことが今直接の被災にあっていない私たちに求められています。 やらされるのではなく自分からすすんですること。言われてしぶしぶするのではなく、みずから進んですること。

 やらされるのと進んでするのとでは、大きな違いがある。 それを発展させて、自分の頭で考えて行動することのできる人。そういう人になってほしい。

 最後に皆さんに申し上げておきたい事があります。 それは、どんな人でも失敗します。 失敗することは決して悪いことではない。 「なぜ失敗したか」を考えて下さい。 この次は失敗しないように、それが大切な事です。 失敗を恐れず、間違うことを恐れずに、ひるむことなく果敢にチャレンジしていきましょう。

 みなさんのこれからの三年間が有意義ですばらしいものとなることを願って私は話を終わります。




2011年4月2日 理事長 西泰子