学園長式辞
西 和彦

皆さん、
保護者の皆様、
須磨学園高等学校ご卒業おめでとうございます。
皆さんは、私にとって特に思いの強い卒業生です。私が学校長として初めて着任した時に皆さんは入学されました。この体育館の入り口で握手を一人一人としたことを、まるで昨日のことのようにはっきりと覚えています。

今日、ここに卒業式を迎えることができたことを、この壇上の学年団はもちろんのこと学校法人須磨学園の役員、教職員全員で喜びたいと思います。

高校を卒業すれば、もうりっぱに社会人として扱われます。
大学に進学する人も、社会に出て働く人も同じです。
そこで、須磨学園が掲げてきた「なりたい自分になる」ということについて話してみます。皆さんが須磨学園を卒業する今日、この3年間に皆さんが学んできた「なりたい自分になる」ということを基にして、社会人として「なりたい自分になる」ということはどういうことなのかを、考えてみてほしいのです。

私は申年の年男です。この2月にとうとう48歳になりました。
振り返ってみると、私のこれまでの人生は、いいことがあったり、大変なことがあったり、病気になったりのドタバタの48年間でした。
私だけではなく、多くの人にとって人生の大きな変化は10年ごとではなく、11年ごとに訪れるような気がします。つまり、人生の転機は10、20、30、40歳ではなく11、22、33、44、55、66、77歳のときにやってくると思うようになりました。
11歳の時、
私は初めて怒りを我慢するということに目覚めました。喧嘩ばっかりの腕白坊主だった僕にとっては大きな決心でした。
22歳の時、
早稲田大学の理工学部に在学していましたが、アスキーという会社を友達と始めました。アメリカの会社マイクロソフトと提携し、私はマイクロソフトの副社長になり、そして3人しかいなかった役員の一人になりました。
でもしかし、マイクロソフトの当時の社長であったビルゲイツと喧嘩して、仕事をみんな辞めて、失意のうちに日本に帰って来ました。
33歳の時、
アスキーの社長になりました。この会社は株式を公開し、社員は1500人、売り上げは500億円にまで大きくなりました。
でもしかし、アスキーは97年に投資をしてもらった会社との関係が悪くなり、私は社長を辞めることになりました。
44歳の時、
長年の夢であった博士号の学位を取り、アメリカのマサチューセッツ工科大学の客員教授に招聘され、同時に自分が生まれ育った須磨学園に戻ってきました。ずっと絶交していたビルゲイツとは仲直りをしました。
思い返してみると、人生の大きなピンチの後に必ず大きな飛躍や展開がありました。自分が夢見た人生の目標は、いつも自分の夢よりも大きな形で実現して来ています。
人生の限界はその人の持つ夢の限界を超えることはないと思います。だから皆さん、夢を持つなら大きい夢を持って、毎日できるだけ大きくその夢を拡大修正していった方がいいと思うのです。
私の44歳からの学校で教えるという人生には、いまのところ、「でもしかし・・」という挫折はまだありません。
こんなジェットコースターのような人生を半世紀近く生きていると、けしからんという人もいますが、実は挫折の最中に「この苦しさを乗り越えると、その向こうにどんないいことがあるのだろう」とすら最近は思うようになりました。

社会に出てすぐに、「なりたい自分」になれるとは思わないでください。「なりたい自分になる」ためには、社会に出てから、「試練」という名の「学習」を「たくさんした人」に、なりたい自分になるチャンスが訪れます。
「社会」という時間割に、
「試練」や「自由」という科目を書き入れてみましょう。

皆さんがこれからの人生で出会う、うまくいかない状況や苦しい時、それが社会での学習そのものなのだということを思い出して欲しいのです。
うまくいかない状況や苦しい状況というのは、決してだめな悪いことではありません。決して失敗や敗北でもありません。
それは、なりたい自分になるためのチャンスが、自分に与えられたということなのだと理解してください。目の前の、うまくいかない状況や苦しい状況は永遠に続くことはありません。時間割が変わるように、うまくいかない状況や苦しい状況も変わっていきます。皆さんがそれを乗り越えた時に、皆さんは「なりたい自分」に必ず近づくことが出来るはずです。

人生は試練ばかりではありません。
「なりたい自分」に近づくことが出来る皆さんのこれからの時間割に、オリジナリティーに溢れた「自由な」楽しい科目も作ってみてください。たとえば、就職する人は「給料支給」も科目に入れてみてはいかがでしょうか。自分ががんばった結果として収入を得るという科目は素敵なことだと思います。私は食べることが好きですが、家族や気のあった友達と「おいしいものを食べに行く」という科目も楽しいですね。

若いときは色々なことを乗り越え、成し遂げることの出来るエネルギーに満ち溢れています。
どうか皆さん、
人生のあらゆる科目にチャレンジをして、なりたい自分になってください。
須磨学園の教員と職員は心を一つにして、皆さん一人一人のこれからの健闘を願い、皆さん一人一人がなりたい自分になられることを祈ります。

最後に、
私は、私が学校長として初めて着任した時に入学された皆さんと一緒に、3年間無事で、今日、ここに卒業式を迎えることができたことを心から感謝いたします。
皆さん、ありがとう。
そして、
皆さん、おめでとう。